Understanding and Collaboratively Treating Parental Alienation Syndrome
片親引き離し症候群の理解と協調治療
American Journal of Family Law Vol.10, 121-133 (1996)
アメリカ家族法ジャーナル

Kenneth H. Waldron, Ph.D. and David E. Joanis, J.D.(法学博士)
Madison, Wisconsin


PDF File

 片親引き離し症候群(PAS)は、離婚した夫婦の子供をめぐる特異な衝突を指すものである。この症候群では、一方の親があらゆる手段を使って子供を他方の親と引き離そうとする。時には虚偽の身体的または性的虐待の告発が行われることもある(1)。PASの最初の論文はRichard Gardner医師によって発表され、その後彼はPASについての書籍等も出版した(2)。彼以前の研究者たちも、PASと類似の家族問題について言及しているし(例えば、WallersteinおよびKellyが1970年代終わりに「王女メディアコンプレックス」として発表した。)、離婚家庭に関わる専門職に就いている者たちはPASという概念がGardnerによって発表されると容易に理解を示した。この「症候群」がこれほど急速に認知されたことによってGardnerによる「発見」が証拠づけられたというわけではなく、むしろ激しく衝突する離婚家庭が複雑を極めた問題を抱え変化に対し強く抵抗し、時に悲劇的とも言える末路を迎える家族の形を概念化したことに賛同が得られたことを示している。
 GardnerによるPASという概念化および、この問題を引き起こす機構の説明は不完全であり、時に単純化しすぎていて誤謬もある。引き離しを企てる親のみがこの症候群を発生させる仕組みを作り上げ、引き離しの標的となる罪なき親から、自分を守る手だてを持たない子供を引き離す、というのがGardnerによるPASの概説である。PASについての詳細な研究が行われ(3)、この破滅的な家族ドラマに出演する全ての者がそれぞれ独自の意図を持って複雑に関与していることが明らかにされている。家族の一人一人が、通常は離婚より以前から引き離し過程に寄与する役割を果たしているのである。片親と別居した後に子供がその親を拒絶した場合のすべてがPASであるとは限らない。子供が自身の親子体験に基づいて、拒絶することもある。非離婚家庭でも、一方の親の態度や行動を理由にその親を避けたり拒絶したいと願ったりしている子供もたくさんいる。その場合、両親が別居すればその願いが明るみに出るのである。
 PASの有無はその発症様式に準じた要素を考慮することによって判定できる。PASを構成する要素は様々な程度で多くの離婚家庭で認められるが、一つの家族においてすべての要素が明確に現れることは少ない。PASが発生すると、子供は片方の親をあからさまに拒絶し、陰惨な告発、過度の抵抗、「引っ越していなくなる」という脅し、果てしない法廷闘争などが繰り広げられることになる。

PASという家族ドラマの出演者たち
 ほとんどのPAS症例において、家族の成員全員がPASを固着化する役割を果たしている。引き離しを企てている親の操作は最も目につきやすく、利己的で悪意に満ちているため、PASの経過を全てその親が引き起こしたものとみなしがちである。子供もPAS発症に自発的に協力していることが多いとGardnerは指摘している。ただし、子供がPASに協力する動機は曖昧であり、悪意があるというよりは自己防衛という意味合いが強い。しかし、子供も明らかにPAS発症および進行の役割を果たしているのである。両親それぞれが引き離しを進行させるような役割を演じている一方で、子供はそれに断固として関わり合わず両親の争いとは距離をおき、両親それぞれと独立した関係を持つという数々の例を我々は見てきた。PASの例では、引き離しの標的となる親にも特有のパターンがあり、標的となる親もまた引き離し過程に関与していると考えられる。一つの例外は、父親と母親が地理的に離れた場所で暮らしていて、親子の面会が相当期間をおいた間隔でしか行われず子供と同居している親に引き離しを企てるに十分な時間的猶予がある場合である。標的となる親と子供とが定期的かつ頻繁に接触していて、標的親がPASの過程に荷担していなければ、つまり標的親が引き離しを企てる親とは独立して子供との健全な関係を維持していれば、PASはほとんどの場合固着化しない。したがって、通常PASは引き離しを企てている親だけの仕業とは言えないのである。PASとは、家族の成員全員がそれぞれの役割を演じ、それぞれの意図を持ち、他人が修正を加えようとしても独自の理由付けをして抵抗する、という家族の機構なのである。
 しかし、例外もある。引き離しを企てる親が、非常に残忍かつ狡猾で、多岐にわたる方法を不断に用い、子供の忠誠心、恐怖心はては信頼に強く働きかけ他方の親から引き離そうとすると、引き離しを企てている親とは独立した関係を子供が標的親と持とうとしても徐々にそのような関係をもつ可能性が踏みにじられてゆく。このような場合子供と標的親との面会を続けると、子供の自我が分裂することが多い(臨床的には垂直分裂と言う)。つまり、引き離しを企てている親と一緒にいるときには子供は標的親を完全に拒絶し、標的親といるときには標的親に対する愛情、愛着、興味、愉快な様子を見せ、引き離しを企てている親に強迫的に従わなければならないことから解放され自由を謳歌している様子を呈する。

引き離しを企てる親(The Alienating Parent; AP)
 典型的なPASの家族では、引き離しを企てる親(AP)の意図は子供に他方の親に背かせ、拒絶という反応内容テーマを確立し、子供をプログラム化する方法を編み出し駆使することであり、引き離しによる損失についての認識力が低下している反面、他方の親を排除するという動機や目標についての認識はしっかりしている。引き離しによる損失は子供や標的親が蒙るだけではなく、AP自身をも挫折させ、時には破滅にまで追い込むのである。
 APの動機は家族によって異なる。不正なことをしていると感じさせられたり、拒絶されていると感じたりすることに対する復讐心が主な動機であることもあるし、一方子供を失ったり、子供に見捨てられたりすることに対する恐怖心が主な原動力であることもある。離婚をめぐり不信感が非常に高まっていると、APはTP(標的親)について最悪なことばかり考える。特にAPが育った家庭で虐待、性的いたずら、裏切りなどを経験しているとこの傾向が強くなる。APは通常、子供は大変傷つきやすく、TPの庇護下にあると著しい危険にさらされると思いこんでいる。このような思いこみはAPの心のうちを子供に投影しているものであり、つまりAPの人格の中心には不安で傷つきやすい原始的な感覚があるということを意味している。子供を独占し支配し続け、危機感や内なる弱さを子供に投影することによって、APは防衛機制を表出しているのである。このようなAPは、あり得ないような根拠のないことを告発することがあるが、それはAPの幼い頃の実体験や恐怖を反映しているのである。

標的親(The Targeted Parent; TP)
 PASの家族における標的親(TP)は子供を見捨てたり、または見捨てたいと思ったりしていることがある。TPはAPに対し怒りをこめた抗議をする一方で、引っ越してAPと子供たちから離れると言ってみたり、子供の人生に深く関与できなくても構わないとかむしろそのほうが望ましいと感じていたりすることもある。このような考え方をしているTPにとって子供に拒絶されることは格好の言い訳となる。TPと子供が地理的に離れて暮らしている場合もある。TPの養育能力や親子関係を築く能力が相当低かったり、家族のなかでTPが「親」を演じることにAPと子供が一緒になって反抗したり、TPが明らかに心理的または情緒的問題を抱えている場合もある。TPが暴力的で子供に無関心であることもあり、TPは通常自分がPASを発生させる一因となっていることにあまり理解を示さないが(例えば、引き離しに対抗しなかったり、APにばかり焦点をあて子供にとって必要なことにあまり顧慮しなかったりする)、APの弄している策やAPによってもたらされた損失については十分な洞察力を示す。

子供
 PASがもっとも発症しやすいのは様々な面での発達が著しい8歳から15歳の子供である。典型的なPASの子供は親の作った反応内容テーマを鵜呑みにし(例えばTPに虐待されたと主張する)、APが間違っているという証拠があってもAPに反対意見を述べることを拒み、APの弄する策を自分も用い(例えばスパイ行為)、APに「実質的に」協力し、APを恐れる。引き離しのテーマのなかに完全に組み込まれてしまってAPの言葉をまるっきり信じてしまう子供がいるが、一方ではAPの言うことの中に誇張や嘘があることに気づいている子供もいる。10代前半の二人の子供が積極的にPASに荷担し、子供たちが父親を性的虐待で告発したという例がある。子供たちの話すことは一貫しており信用するに足ると思われたが、刑事裁判では子供の話のなかに不確実な情報が多く認められたため父親は有罪とはならなかった。それでも子供たちは父親と面会することを拒否し、監視付きの面会ですら拒んだ。引き離されている子供たちによる激しい拒絶は有効なことが多い。子供は「無理矢理」父親と食事をさせるというのなら逃げるとか、もしくはもっとひどいことをすると脅した。二年後、二人の子供のうち一人が「嘘」をついていたことを打ち明け、それから間もなくしてもう一方の子供も父親に虐待されたという主張が嘘であったことを認めた。この親子の例では、父親による性的いたずらは存在せず、子供が父親を拒絶する理由もまったくなかったのである。二人の子供が母親の命令に従っていたのは、母親を「恐れていた」からに他ならないのである。
 複数の子供がいる場合、PASが発生するとそれぞれの子供がPASというドラマの中での異なる役割を演じ、引き離しの程度が子供によって異なる。通常、一人は完全に片方の親から引き離され、一人はどちらともつかず、一人はTPになついている、というような形になる。

家族という組織
 PASは家族という組織の防衛機制である。防衛機能は必ずしも明白とはならないが、往々にして家族の成員が巧みに共謀してPASを発生させているのである。研究から、以下のような防衛機能が明らかにされている。
 ・APの自尊心を守るため(例えば、別離後にTPが社会的に成功したり再婚したりしてAPより「よい」人生を手にしていてPASが増悪するような場合)
 ・結婚生活に失敗したことをAPが渋々ながらなんとか受け入れるため(例えば、APがもう一方の親のことを考えたり話したりせずにはいられない場合や、家族の誕生日、休日、休暇などのときにPASが増悪するような場合)
 ・APと子供の共依存を維持するため(例えば、子供がTPといるとAPが何度も電話をかけてくるような場合。APが子供に向かって「あなたがいないときにあなたの部屋に入ると悲しくてたまらなくなるからどうしても入れない。」と言ったという実例がある。)
 ・怒りと復讐心を表出するため(例えば、TPが新しいパートナーを子供に紹介すると倫理的に問題があるとAPが怒り狂い、実際にはTPに新しいパートナーができたことや、自分の立場が容易に他人に取って代わられたことにAPが怒りを抱いている場合)
 ・APが離婚を子供の頃の体験の「大人版」であると認識していて、その辛い経験に対処するため
 ・何か変化があるとAPが自分と意見が違う人や子供に食ってかかったり、子供の養育を放棄しようとしたりすることに家族が対処するため(この場合子供は、自分はAPとは独立した存在だと思ったり、APに反対したりすることを恐れ、APに賛同しない人々に向ける激怒や拒絶が自分に向かうのではないかと心配する)
 その他、「生死に関わるような」原因からPASが発生している場合もある。例えば、心理的に脆弱なAPを守るためにPASが発生していたり、APがAPの生まれた家族の中でPAS発生の手下としての役割を持っていて、TPを親族の中から追い出そうとしていたりすることもある。PASが発症している特定の家族においてその原因を突きとめるには、家族の全員がPASの進行に荷担していないとすればその家族にはどんな問題があるのであろうか、と考えるとよい。

プログラム化の諸段階
 PASではプログラム化が認められる、プログラム化は家族の仕組みの一部分として長期わたって行われるものであり、夫婦の別居を機会に規模が拡大するに過ぎない。家族の全員がPASにおいてそれぞれの役目を果たしているとはいえ、子供のプログラム化の責任は全てAPにある。プログラム化は以下のような段階を経て行われる。
反応内容テーマの確立
 引き離しの反応内容テーマはAPまたはTPによって早期に確立される。時に偶発的に確立されることもある。ある家族の例では二つの主要なテーマが認められた。一つはTPが確立したもので、遺棄であった。この親は実際に7ヶ月間子供を遺棄していた。そしてこれとは矛盾するのだが、もう一つのテーマはTPによって誘拐されるという激しい恐怖心であり、これはAPが形成したものであった。TPは厳しい状況におかれ、子供に会おうとする努力が少しでも欠けていると、育児放棄とみなされ(つまり、子供を気にかけていない証拠である、とされた)、子供に会おうとする努力はすべて妨害され、自分たちを誘拐しようとしているのだとして子供たちが大騒ぎした。PAS症例では、このようなテーマが妄想的に信じ込まれている。実際にこのようなテーマが確立される下地となるような出来事の一つや二つがある場合もあるが、基本的にはテーマは非常に非現実的なものである。前述の例では、母親が実際に7ヶ月間育児放棄をしていたのだが、別居以前の5年間および育児放棄後の6年間は一貫して子育てに積極的に関わっていた。12歳と8歳の子供たちが誘拐されるようなおそれはほとんどなく、特に子供たちにPASが発症してからは誘拐の可能性は非常に低かった。

気分の誘導
 次の段階は気分の誘導であり、この段階においてAPは以下のような方法をとる。
 ・罪悪感(例;「どうしてお父さんが私たちをおいて出ていったのかわからない。なにもかもうまくいっていたのに」)
 ・恫喝(例;「ママのところへ行きたいなら行きなさい。でももうママのボーイフレンドには絶対に抱きつくんじゃないぞ。分かったな。」)
 ・恐怖(例;「あなたたちがお父さんのところにいる間じゅうお母さんがここにずっといるって覚えておいてね。困ったときにはいつでもお母さんに電話するのよ。」)
 ・犠牲者(または「かわいそうな私」)を装う(例;「あーあ、またお前のお母さんが僕を裁判所に呼びつけたよ。早くあきらめて、僕たちをそっとしておいてほしいのに。」)
 ・同情を求める(例;「パパはママよりお金をたくさん持っているからあなたたちをいろんなところへ連れていけるけど、ママはお金がないから連れて行けないのよ。分かってね。あなたたちにとっては理不尽なことだとは思うけど、これが現状なのよ。」)
 ・過去におこった事の「真相」を子供に話す(例;「お母さんがいなくなるまではお前が傷ついたりお母さんのことを嫌いになったりするといけないと思ってたくさんのことを隠していたんだ。でももう本当のことを話すべきだと思う、実は・・・・・」)
 ・過度の甘やかしと放任(例;「自分のライフルを持ってもいいに決まってるさ。ママは僕たちが二人で狩りを楽しむのが嫌なだけなんだ。」)
 ・脅迫(例;「そうなの、楽しかったのね。お父さんと一緒に暮らしたいんでしょ?もしそうなったらお母さんには二度と会えなくなるわよ。」)
APは気分の誘導のテーマに子供が染まるまで上記のような方法を実行する。通常、TPは子供の利益になるように行動するというよりはAPに感情的に対抗してしまい、その結果APによる気分の誘導に加勢することになる。子供が誘導のテーマに染まると、APは上記のようなことを行わなくなり、プログラム化が有効に作用しているかどうかの確認を行いつつも子供の自由にさせるようになる。プログラム化の有効性を確かめる最も強力な試験法は「自分で選びなさい」と子供に言うことである。子供がAPを支持しTPを拒絶すればするほど、APは「子供の言うことをどうか聞いてやってください」と人々に求めるようになる。最終的にAPは子供の気持ちを無視していながら、自分のことを子供の擁護者だと思いこむ。子供がTPの家にいるときに嫌なことがあったと繰り返し報告する例もよくある。これは本当のことであったり嘘であったりし、APの作ったテーマを反映している事柄であることが多い。子供がこのような報告をすると、APはそれを何らかの形で記録する。

アメと鞭
 APは子供が自分に従順であると報酬を与え、少しでも自分の考えに同調しないとみると罰を与える。この罰は直接的なものであることもあるが、たいていはプログラム化におけるそれまでにたどってきた段階をもう一度徹底的に実施することが多い。このアメと鞭の段階にはいろいろな形態がある。例えば子供が「パパは一緒にいても全然私をかまってくれない」などのような、面会に対する消極的意見を言う場合、APは子供と特別なことをする機会を作り父親が子供に関心を払わないことを「補償」し、面会が楽しかったと子供が言うとAPはなんとなくぞんざいな態度をとったり、「ふーん、楽しかったの。でも早くいつもの生活に戻らなきゃいけないでしょ。」とあからさまに言ったりする。プログラム化が確立すると、普遍化が起こり子供は両面的価値観を喪失しTPを完全に拒絶するようになる。こうなると、TPのすることはすべて「間違っている」と決めつけられる。
 残念ながらPAS症例が専門家のところへくる頃にはプログラム化は普遍化し、ただ維持すればいいだけの段階に至ってしまっている。専門家のところへ来た時点で既にPASが確立してしまっていると、APがその時には実際の引き離し行為をほとんど行っていないこともある。この段階ではAPは子供のTPに対する拒絶がぐらつかないか見張り、ぐらついた場合に強化するだけである。したがってこの段階においてAPが果たしている役割は見逃されることがある。APは「私は子供が父親と親子関係を持つように促しているんです。」とか、「私は息子に父親と会って欲しいと本当に思っているんです。実を言えば、息子と父親を疎遠にしようと思えばできます。だけど息子の気持ちを考えると、それは息子のためにならないと思います。」とか、「がんばってみたんですが、娘を母親のところへ行かせることがどうしてもできなかったんです。」などと言う。

方法
 APは通常いろいろな方法を組み合わせて用いる。以下のような方法がある。
 ・TPの存在を否定する
  これはあからさまな場合(「この家の中ではあいつの名前を二度と聞きたくない」)も、微妙な場合(子供がTPと楽しく過ごしたことを認めようとしない)もある。ある家族では、父親が子供とキャッチボールをしているときに母親が迎えにやってきても母親の方を一瞥もせずキャッチボールをやめようとしなかった。その父親は、母親がしびれをきらしてキャッチボールをやめさせようとするまで子供の注意を自分に引きつけ、母親がしびれを切らすと子供と母親を残して立ち去り、最後まで母親の存在を認めようとしなかった。
 ・楽しい経験やうれしいという感情を、否定的感情と結びつける
  TPに対する愛情や興味を子供が表現してもAPはそれに対して反応を示さなかったり、否定的感情と結びつけたりする。(「ああ、それはよかったわね。私はあなたがいなかったから最低の週末を過ごしたわよ。」)
 ・TPの人格や生活様式を常に批判する
  この場合、APは「こうかもしれない」という錯覚を生み出す。攻撃はTPにとどまらずTPの親族(「お母さんがあんなふうなのは仕方ないんだ。お母さんは子供の頃親に虐待されたから。」)、TPの仕事、暮らしぶり、趣味、旅行、宗教、友だち(特に新しいパートナー)にまで及ぶ。
 ・子供をスパイとして利用する
  両親の間の情報の運び役として子供を使い、「スパイゲーム」に子供を巻き込んだり、巧妙に「過酷な取り調べ」を子供に行ったりする。(例えば、母親が「さあ、〜について話し合いましょう」と言うと子供が過敏に反応し怯えるという例があった。母親のこの言葉が、父親の言ったこと、したこと、選んだことなどに憎しみを抱かせようとする合図だということを子供たちは思い知っていたのである。)
 ・一、二回あったことを普遍化しそのことに一般的意味を持たせる
  この方法を用いるAPはこんなことを言う。「パパたちが車で帰ろうとしたらママが追いかけて叫んだの覚えているだろ?(実は母親が車に乗った子供たちにさよならのキスをしようとしたのに、父親は母親の方の窓を閉めたのであり、そのことには触れない。)つまり、パパがママのことを冷静じゃないって言っているのはそういうことなんだよ。ママは自分の感情を抑えることができないんだ。だからパパは君たちがママのところに行くと心配なんだよ。」
 ・正常範囲内の差異を取り上げて、それを良い/悪い、正しい/間違っているという問題に置き換える
  APは子供の目にTPが悪く映るように状況を操作したり、TPの間違っている点について困惑しているような素振りをみせてTPを傷つけたりする。「お父さんはどうかしたのかしら。子供は8時までに寝なければならないって知っているはずなのに。」などと言ったりする。この方法は非常に巧妙に使用されることがある。(例;子供がTPとしたことについて話すときに首を横に振ったり、いやらしく笑みを浮かべたりする)
 ・親同士の争いにおいて子供を味方につけようとする
  あからさまなやり方だと次のような質問を子供にする。「パパはお金を持っているのに、お金のないママをいつも裁判所に呼び立てるけど、パパのしていることを正しいと思う?」もっと巧妙なやり方だと、「あなたが母親だったらどうする?裁判所へ行って子供を守るためにがんばる?」と尋ねたりする。この方法は子供に対する強烈な脅迫を潜ませていて、TPに対する愛情や興味を示した場合、APからの愛を失うか、APに見捨てられるのではないかという恐れを子供に抱かせる。他にも、子供には一人の親で十分であると信じ込ませようとしたり、子供を本当に愛しているのはAPだという妄想を子供に植え付けたりするやり方もある。するとTPは子供にとって脅威となってしまう。
 ・子供をAPの保護を必要とする脆弱な存在であるとみなす
  これはPASでは非常に多く認められる現象である。PASの子供は、自分の人生は壊れやすく、誰かに無理矢理TPと会うように仕向けられたら人生がめちゃくちゃになってしまうと表現する。APは、APの管理と保護がなければとても危険な目に遭うのだという考えを子供に植え付け、子供との関係を強固にする。この方法はしばしば反転し、APは脆弱なため平静を保つには子供の存在が必要である、と子供に思わせる場合もある。
 ・嘘をつく
  この例としては、虐待、無視、性的いたずらについての虚偽または非常に疑わしい告発が挙げられる。このような嘘の中にはあくどいものがあり、子供はAPの言う嘘を本当だと錯覚することがあるが、子供の多くは嘘をつく親と対立したり反論したりするだけの勇気を持ち合わせていないだけなのである。
 ・洗脳
  現実と非現実を混同させるようなやり方で子供の経験をすり替える過程を経て、APは子供が現実に対し間違った見方をするように誘導する。これには全くの嘘(「パパはあなたといて楽しいと思ったことが一度もないのよ。いつもそう文句を言っていたんだけど、あなたを傷つけるといけないと思ってパパはあなたの前では言わなかっただけなの。どうして今になってパパがあなたに会いたがるのか分からないわ。」)、子供の気持ちの巧妙なすり替え(「おまえは赤ちゃんのときからお母さんを怖がっていたんだ。お母さんに抱かせようともしなかったんだよ。」)、記憶の植え付け(「パパが私を殴ったこと覚えてる?忘れようとして頭の中から締め出したんじゃないの?」)などの方法がある。子供はAPの見方を取り入れて、実体験とAPの言うこととの混乱を収拾する。

PASの仕組みの理解
 PAS発症の動機は家族によって異なる。APの動機には次のようなものがある;復讐、独善性、罪悪感、子供を失ったり子供にとって主となる親の地位を失うことへの恐れ、子供に対する独占的支配欲、嫉妬、十分な養育費をせしめようとする欲望、自己喪失、自分が育った家庭における見捨てられたり疎外されたりした経験、苦痛の回避(去る者は日々に疎し)、自己防衛、TPを非難することによって自分が詳細に調査されることを避ける、衝突・権勢・支配を通じてTPとの夫婦関係を維持する、不安定な自尊心の防衛。TPの動機は、子供を見捨てたいという欲求、APに対する怒り、独善性、育った家庭での問題、愚かさ、罪をかぶせられた経験、APの脆弱な精神の防衛、犠牲者であるという思いこみ、子供と関係を築くことに対する恐れなどである。子供の動機としては、喪失感への対処、両親の衝突を解決することによる自己防衛、正常な成長過程からくる圧力、TPとの関係に実際に問題がある、APに対する両面的価値観の解消、APに対する恐れなどがある。
 前述したとおり、PASには家族という組織の防衛という側面もある。したがって次のような疑問が浮かび上がる。「引き離しの問題が解決すると、この家族には次に何が起こるのであろうか?」通常、PASが発症する背景には注意を要する深刻な家族問題が潜んでいる。PASによって真相が深い霧に包まれ、明るみになることを拒む他の問題が覆い隠されているのである。

PASの判定
 PASであると判定することは困難なことがあり、進行すると特に難しい。家族にとっての「真実」は非常に相対的なものである。しかし、PASには特有のパターンがあるため、PASに詳しい専門家はそれを頼りに判定する。
 1. 矛盾:子供自身が矛盾したことを言ったり、実際に起こったことや公平な第三者の言うことと矛盾することを言ったりする場合。
 2. 子供が不適切かつ不必要な情報を知っている:例えば、「ママが私を産むとき、パパは浮気していたのよ。」とか「ママはぼくを堕ろしたかったんだ。」
 3. 子供が人格攻撃に荷担する:この場合子供は全てを否定するような表現を使い、その表現を正当化するのに十分な特定の問題が起こっていると言う。
 4. APとの共謀、APのみとの協調:これは自分「たち」という集合を指す代名詞を使うことから明らかになることが多い。例えば「パパが僕たちをおいて出ていったとき・・・」とか「私たちが暮らしていくにはお金が足りないの。」
 5. 子供がAPのテーマを受け売りする:子供がAPと全く同じ言葉を使って受け売りすることさえある。子供の自我とAPの自我の区別がつかなくなる。
 6. 子供が専門家にもスパイのようなやり口でTPについて報告する
 7. 危険な状態にあるとか脆弱であるという感覚を子供が持っている:すべてのことが生死に関わるような意味を持っているように子供が思いこんでいる(例;「もしどうしてもお父さんと食事しろって言うなら、逃げるか自殺する。」)
 8. 子供を養子に出して家族の形態を変える
 9. 分裂:TPについて肯定的なことを全く言わず、APについては否定的なことを全く言わない。
 10. 人間関係について多面的な考え方が全くできない:分裂が一例であり、他に両親を非常に単純にしか描写できない(例;「ママは出不精でパパは芸人」)場合もこれに当てはまる。
 11. 愛したり愛されたりすることを制限されているという感覚を子供が持っている

法廷におけるPAS
 父親(たいていの場合TP)の弁護士にとってPASは恩恵であるように思われてきた。PAS症例では身体的および性的虐待の告発が多いため、刑事裁判における被告側の弁護士にとってもPASが有用である。Richard Gardner医師は次のように発表している:
  (虚偽の性的虐待告発において)でっちあげ証言をする子供はPASの特徴を色濃く表す。PASの典型例では、子供は父親に対する誹謗中傷キャンペーンに協力し、母親を偶像化する。子供は母親にプログラム化され父親を憎むようになり、自らも父親に対する敵意を形成し母親に貢献する。虚偽の性的虐待告発はPASの特徴である。PAS症例においては、性的虐待がでっちあげである可能性があることを強く示唆する。本当に虐待されていた子供は、通常PASの徴候や症状を表さないものである。中にはPAS症例でも本当に性的虐待を受けていた子供もいるが、稀なことであると考えられる。
 これはご都合主義であろう。子供に対する性的虐待で告発されている者の弁護士が、その子供はPASの犠牲者であると証言してくれる精神衛生専門家を見つければ、その専門家はPASの子供が本当の性的虐待を受けているケースは稀であると証言してくれるであろう。子供の親に対する反感を単純にPASで片づけることによって弁護士は被告を弁護できるのだ。
 このような極端な告発がない場合でも、離婚に際し子供に嫌悪されている父親につく弁護士は、子供の敵意にPASの烙印を押し母親がそのような感情を子供に抱かせたのだと非難することも可能である。
 1994年春発行のLoyola of Los Angels Law Reviewの中で「注釈および解説:片親引き離し症候群:揺らぐ信頼性」と題して以上のような懸念について述べられている(5)。この中で、PASの理論はこの分野の専門家の間で十分受け入れられているとは言えないため裁判所ではPASの根拠が挙げられても認容すべきではないと記されている。また、「一般的認容」の基準はFrye対米国の裁判で採用されたものであると述べられている。(訳注;2001年1月30日にタンパ(フロリダ)の裁判所において片親引き離し症候群についてFrye検証の基準(注;米国では専門家の法廷における証言については、その専門家の属する特定の領域において一般的合意が十分に確立していることが求められている。これをFrye testと呼ぶ。)を満たすか否かに関して二日間にわたりRichard Gardner医師に対し事情聴取が行われた。その結果、片親引き離し症候群が専門家集団の中で十分に受け入れられており、裁判所で証拠として認められるに足るとする判断が下された(Kilgore v. Boyd, 2001)。)
 この論文はGardner医師を強く批判し、PASの理論はGardner医師が作り出した基準に立脚しているものであると指摘している。さらにこの論文では、PASに関する証言はDaubert検証に則るにしろFrye検証に則るにしろ排除されるべきである、と主張されている。Daubert検証では、審判官は根拠が信頼に足るか、対象事例と関連性があるかということに関する専門家の意見に立脚し法的に認容できるか否かを規定しなければならない。根拠についての連邦規則104(a)では、裁判官は証言の論理性や方法論に科学的正当性があるかどうかを予め評価しなければならないとされている。言い換えると、裁判所はある理論についてそれが検証済みであるのか、査読された上で発表されたものなのか、広く受け入れられているものなのか、ということを考慮するということである。(7)
 前述の論文で憂慮されていたわりには、PASは法廷においてそれほど受け入れられてこなかった。PASの危険性を示す上でもっともよくとりあげられる判例はKaren”PP” v. Clyde”OO”の裁判である(8)。この判例では母親が性的虐待を理由に、父親と子供との面会時に監視をつける必要があると請求した。性的虐待の有無について専門家たちの意見が分かれ、裁判所はGardner医師の論文を詳細に引用した。そのためにこの判決は批判された。しかし、実際はこの裁判の内容を詳しく調べてみると、Gardner医師の理論ではなく、証拠および証人の証言に基づいて裁判所が結論を下したことが分かる。結局裁判所は親権者を母親から父親に変更し、母子の面会を一時中止とし、治療と観察を続けることを条件に面会を再開するという判決を下した。
 その他に、PASが一般的な診断手法として受け入れられているか否かについての結論を下すことは避け、上記と同じような判例が再審で下っている例がある(9)。T.M.W.の例では、生物学的な父親が、娘を継父の養子とすることに反対していた。裁判所はPASが発症しているかどうかを判断するという視点で娘の心理学的評価が必要であるという判断を示した。上告審ではPASはフロリダ州法の要件を満たさないという理由で心理学的評価の必要性が否定された。この例では父親は、何年にもわたり心ならずも子供と会うことも連絡をとることもできない状態が続いていることがPASが存在することの証左であると主張した。再審では、PASを診断手法として認めることについて専門家の間で異議が唱えられているかどうかということについての結論は得られなかったとし、さらに進んで他の専門家の警鐘的な言葉を紹介した:
   「この分野において議論される鑑定人証言の理論を考慮するにあたり、
非常に大切なことはいろいろな症候群を参照する際に生ずる混乱を避けることである。現在のところ心理学専門家は、子供に性的虐待があったことを検知できるような心理学上の症候群が存在するという合意を持つに至っていない。症候群という言葉を使うことによって、単に混乱が広がり、被虐待児症候群との不当かつ無意味な比較がなされるだけである。いかなる症候群にも言及しないのが最善策である。」児童性的虐待裁判における専門家証言におけるMyersの発言(1989年)
 1994年のアイオワ州の例では(10)、親権者を母親に変更するという裁判所の仮命令に父親が異議を申し立てた。父親は、心理学者のPASについての証言に裁判所が重きを置きすぎていて、心理学の分野ではPASの理論は受け入れられていないと主張した。裁判所は親権変更の発効期日は修正したが、その他については一審判決を確認した:
PASが確定的な理論であるかどうかという問題について我々は決定を下さない。我々は提出された証拠に基づいて結論を導き出したのである。本件はまったく新しい再審であるため、認容するに足ると思われる証拠のみから判断した。全ての鑑定人の意見も通常通り考慮に入れた。意見陳述の重みづけは、考慮の上重視すべきと考えられた場合や、鑑定人の経歴、本件についての理解度、意見を裏付ける理由、もしある場合は本件における利害関係などから総合的に判断して行った。
 1992年のオハイオ州の例では(11)、控訴人の鑑定人が子供のうち一人にPASの症状が認められるため親権者を変更するべきである証言した。裁判所は一審判決を確認し、父親の親権変更の申立を退けその主張に説得力はないとした。父親に不信感を抱き疎遠となるような圧力を母親が娘にかけられていたとする証拠が提出され、心理学者によってPASが存在すると証言されたが、一方で母親が娘に父親との関係を維持するよう促していたことを窺わせる証拠があり、別の心理学者によって、母親が娘を支え思いやりを持って接していると証言していることを理由に、一審判決が確認されたのであった。
 ウィスコンシン州の例ではPASについてはっきりと意見が述べられている(12)。この例では父親が、子供の主な居所を母親から父親へ変更するよう申し立てた。その理由は、母親によってPASが発生したため、回復させるには主な居所を父親のところにするしかない、というものであった。一審では子供が父親から引き離されていることを認めたが、PASから回復させるために居所を変更することは子供の最大利益とはならないであろうと結論づけた。父親側の鑑定人は二人の子供とも重症のPASであると証言した。その心理学者は、父親は積極的に養育に関わろうとしており、PAS発症の原因は母親であるため、子供を回復させる唯一の方法が居所を父親のところに変更することだという意見を述べた。裁判所は主な居所を変更することにはそれなりの危険があることをこの心理学者が認めたことを指摘し、心理学者の勧告を退けた。裁判所は、引き離しによって長期にわたる悪影響があらわれることを認めたが、心理学者が指摘するような害が本当に及ぶのかどうかは推測の域を出ないとした。さらに、居所変更によって子供の学校生活や友人関係に影響がある可能性があるという判断を示した。鑑定人証言そのものが、PASの治療法については諸説あり、「憎まれている」親のほうへ子供を移動させることによってPASの治療が成功することを示した研究データは少ない、と指摘した。したがって裁判所は、子供を父親のところへ移動させることによってPASが治癒するという根拠は十分ではないという結論を下した。一審では子供に対する事情聴取も行われ、子供たちが父親を好いておらず、一緒には暮らしたくないと思っているということを明らかにした。子供のうち一人は自分の父親に対する気持ちは、自分自身の経験から生み出されたものであると裁判官に主張した。(訳注;「自分自身で判断したこと」というような子供の発言は典型的なPAS症例でよく認められるものである。)子供たちは父親と暮らすことを断固として拒否したので、裁判所は子供たちが父親と暮らすことによってひょっとしたら生じるかもしれない利益よりも、悪影響の方が上回るとした。そして父親が主張する治療法は、悪影響が生じる危険性が高いという結論を下した。
 父親側の鑑定証言を行った心理学者が、この判例で証言した唯一の鑑定人であったにもかかわらず、第一審で鑑定人証言を退けたのは適切であるという判断が控訴審で示された。そして、「鑑定人証言はPASの治療法については諸説あり、研究データも限られていて、居所変更には相応の危険が伴う、としている。さらに、両親および子供たちの証言が、居所変更が有効に作用せず不適切なものとなるであろうことを示す何よりの根拠である。」という意見を示した。
 このウィスコンシン控訴審の補足説明で、第一審において両親の人格および子供に関する争いにおけるそれぞれの役割について調査し両親ともにPAS発症について非難されるべきであることを困難の末に解明したことを指摘した。裁判所は、両親のそれぞれが他方に対して行っていること、子供をお互いの怒りの渦中に巻き込んでいることを批判した。この補足説明では第一審判決および控訴審判決ともに、両親のどちらか一方に有利となるようなものではないということが強調されている。

PASが子供に与える影響
 PASが子供によい影響を与えることは決してなく、悪意に満ちた激しい影響を及ぼす。PASの重症度は洗脳の度合い、APに絡め取られながら過ごす時間の長さ、子供の年齢、子供を支援してくれる健全な人の数、子供が妄想を「信じている」度合いなどによって左右される。(多くのPAS症例では、子供はTPに対する完全な拒絶のありとあらゆる兆候を見せるが、親密な人にはTPに対する拒絶が演技に過ぎないことを打ち明ける。)PASは子供の様々な機能に影響を及ぼす。
 子供の内面の心理的情緒的機構は、TPに対する拒絶に関連することに集約されていく。子供というものは、自我および自己概念を両親との自己同一視を経て形成する。この過程は生後間もない頃から始まる。TPを拒絶することによって、自分自身をも拒絶することになり、時間が経つにつれ自己嫌悪、抑うつ、自殺念慮などが生ずる。引き離しの時点では、子供はたいてい大人びていて、はっきりと自己主張し、自信に満ちているように見えるため、成長するに従いこのような問題が出てくるとAPや他の人々は驚く。しかし、引き離しの時点で子供に認められる好ましい特徴は見せかけにすぎず、PASの子供が嘘をついたり、操作的であったり、敵意をむき出しにしてもよいという許可を与えられ、権力を手中にしているような感覚を持たされていることを反映しているにすぎない。PASの子供はAPの激怒を自己概念の一部として内面化し、これがTPに対して行っている悪意に満ちた行為に対する強い罪悪感と一体となり、怒りと罪悪感が慢性的感情として定着する。また、悲哀と切望感を伴うことも多い。
 PAS症例では現実の著しい歪曲化が認められるため、子供の現実検証能力が低下し、人生における他の局面をも歪曲して認識してしまう。例えば、子供はTPとの空想的親子関係や、空想上の親との関係を夢想し、それをまるで現実であるかのように考えることがある。このような親子関係についての空想は、子供が成長するにしたがい普遍化し、他人との関係を現実に即してではなく空想的に考える傾向が生み出される。
 子供の対人関係能力は直接的な影響を受ける。APにからめとられることによって、子供の様々な機能の発達が阻害される。例えば、引きこもり、社会的立場からの退行、他人から未熟だとみなされるなどの影響があらわれることがある。このような影響は、成人期初期に個の確立の最終段階を迎える頃まで明るみにでないことがほとんどである。生まれ育った家庭から分離独立できないと、子供は青年期の人間関係に固執しAPに絡め取られた状態を継続する。そして子供は人間関係において敵意と憎しみに基づく行動をとっても構わないのだということを覚え、騙したり誤魔化したりすることが人間関係にはつきものだと認識するようになる。
 PASの子供の主要な感情は喪失感であるが、喪失感が表立って認められることはあまりない。片親を喪失することによる影響は、様々な適応障害として現れるのである。片親を喪失しもう一方の親のみによって育てられた子供は学力が低く、心理学的問題が出現する可能性が高く、自尊心が低く、認知能力が低下し、衝動の抑制がきかず、学校生活への適応障害、強い恐怖心と不安(特に見捨てられ不安)、性的役割との不十分な一体化などの問題が起こることが明らかにされている(13)。一般的に兄弟姉妹との関係にも悪影響がおよぶ(14)。
 一方、離婚後も両親双方と積極的な関係を維持している子供には前述のような悪影響はあらわれないということが数々の研究で明らかにされている。両親双方との関係を維持している子供は、自分の家族に満足しており、全般的な適応が良好で(自尊心が高く、性的役割との十分な一体化、高いIQ、高い学力、離婚に対する良好な適応、青年期への良好な適応)、恐怖心や不安が少なく(特に見捨てられ不安が少ない)、両親それぞれと良好な関係を築くことができることが分かっている(15)。片親のみに育てられた方が良好に生育するという結果を示した研究は我々の知る限りでは存在しない。

問題解決
 PASに対する万能の解決方法はない。たとえ症状が似ているといっても、それぞれの家族に特有の事情があり、複雑に作用しあう働きが背景にあるのだ。すべてのPAS症例について言えることは、PASからの回復を導くには関係する専門家たち、特に法律専門家と精神衛生専門家が協力する必要があるということである。専門家が親たちと同じように対立する危険性がPASにはつきものであり、そんな大人たちを見て子供は大人はみんなくだらないと思うようになってしまう。弁護士が対立し、専門家が争い、裁判官が混乱すれば、事態の改善を阻むことになる。
 関係するそれぞれの分野の専門家は、それぞれの家族に対し建設的な役割を果たせる可能性がある。PASが疑われる家族については、注意深く詳細に協力し合って評価し、治療計画を立案・実行しなければならない。
弁護士の役割
 弁護士は、APまたはTPとの初回面談を通じPASの家族に最初に接することが多い。米国の裁判制度は当事者主義が徹底しているのだが、家族の紛争に関し当事者主義はうまく機能しない。当事者主義にのっとった紛争により、引き離しと偏向が増強する。残念ながら、PAS家族につきものの非難の応酬は、当事者主義によって余計ひどくなるのである。しかしそれでも、子供の利益を代弁する弁護士を含め、PAS家族に関わる弁護士は建設的な役割を果たすことができる。PASでは苛烈な対立によって両親にとっても子供にとっても悲惨な結果に終わってしまうのが通例であるのに、どのように建設的な役割が果たせるというのであろうか、という疑問が生じるであろう。依頼人の利益を守りながら、PASに建設的に介入するのは困難に思えるが、不可能ではない。
 父親または母親についた弁護士が、自分の依頼人がAPまたはTPであると認識した場合、依頼人にできるだけ多くのPASについての情報を与えるべきである。依頼人がTPの場合の方が理解を得やすい。次に、TPおよびAPによって行われている引き離し行為を同定し、そのような行為をやめるよう依頼人に告げる。これは多少立ち入りすぎたことのようにも見えるが、依頼人は弁護士の言うことはよく聞くものである。依頼人がPASを引き起こすような行動をやめることに同意するのは、アルコール乱用者が飲酒をやめると約束するのと似ている部分がある。なぜなら、飲酒と同様にPASを引き起こす行為は依頼人にとって自滅的であるとしか言いようがないからである。やめると決断することが第一段階である。それだけでは問題の「解決」にはならないが、破壊的な行為を中止することが、改善に向けて前に進む下地となる。
 APの弁護士の役割は難しい。APは多くの証拠を集めていて、自分のAPとしての役目にたくさんの時間とエネルギーを注ぎ込み、自分の立場や自分が信じていることが正しいと確信している。APは自分に同調してくれる弁護士、精神衛生専門家、制度をひどく欲している。
 しかし、弁護士を雇うのは、その知識と判断力を利用するためである。APの弁護士もTPの弁護士も、お互いが協力すべきであり、双方が訴訟後見人やその件に関する精神衛生専門家とも協力すべきである。子供が両親双方と健全な関係を維持することが利益になるのだという意見で父親と母親が一致している場合は、依頼人の利益は最大限に守られるであろう。
 弁護士が訴訟後見人などになって子供の利益を代弁する立場となった場合、その件に関わっている他の専門家たちが協力できるよう調整役を果たすことができる可能性がある。調整役を担った弁護士は、PASに引き込まれないようにし中立の立場を保ち具体的な根拠に基づいて判断を下さなければならない。APのヒステリーや大げさな主張に反応してはならないし、TPが犠牲者として振る舞うことを許してはならない。子供の擁護をする弁護士は、情報を収集し、関係する専門家および場合によっては法廷に提供するという重要な役割があり、そしてその家族にとって適切な治療計画を提唱することもできる。この役目を負う弁護士は、PASが癌のように進行するのを遅らせたり止めたりするよう積極的に関わらなければならない。

心理学者の役割
 弁護士による上記のような介入を行っても、家族が建設的な方向へ進むことができないのであれば、離婚、親権評価、PAS家族の評価に詳しい精神衛生専門家の協力が必要になる。ここで大切なのは、専門家の選択に弁護士が関わることであり、専門家を参加させることによって事態を悪化させないよう注意をはらう必要がある。心理学者は、まずその家族が本当にPASであるのかどうかを判定しなければならない。というのも、子供のTPに対する拒絶がPASに起因するものではないことがあるからである。そしてPASであるかどうかの判定の次に、家族の成員全員のPAS発症につながるような動機、その家族におけるPASの防衛的要素または作用、PAS発症のために用いられている手法、特徴について明らかにしなければならない。
 このように詳細な評価が必要な理由は以下の通りである。第一に、PASの背景因子および動機に踏み込まなければ改善は望めない。例えば、精神的に脆弱なAPを保護するような形で家族ができあがっている場合、その家族に変化を促そうとすると余計に防御的になり、最悪の場合はAPが精神的に破綻したり自殺したりするような著しい危険が生じるかもしれない。このようなAPには支援や、PAS治療のための変化を生じさせるのに先立ちカウンセリングが必要であろう。引き離しの完成に用いられている手法は、その家族に適した有効な介入方法を組み立てる上で参考になる。例えば、手法の一つがTPの存在を否定することであれば、TPが子供にとって重要であることをあらゆる手段を使ってAPに認識させなければならない。

協調
 評価が終了したら、関与する精神衛生専門家と弁護士が計画に協調して参加しなければならない。それぞれに重要な役割がある。専門家同士が協調する有様が、家族にとっての健全な問題解決姿勢の手本となるため、協調の経過を家族に公開するべきである。介入計画は各家族の事情に基づいて作らなければならない。しかし、すべての家族に類似する以下のような介入方法がある。
1. TPと子供との現在の面会に利益があることを確立させる
親子関係を維持することによる固有の利益の他に、各々の家族に特異的な利益もある(例;「お父さんとちゃんと会っていれば進んで学費を一部負担してくれる」)。家族全員が面会による利益を認識することによって、親子の面会について争うのではなく価値を見いだすという雰囲気ができあがる。また、子供とTPの面会に伴う欠点についても理解しなければならない。しかし欠点があるからといってそれを理由に面会を中止しようとするのではなく、改善すべき点として取り組まなければならない。
2. 面会を取り巻く環境の確立
これには問題事項や問題行動に関する行動規定が含まれる。例えば、子供がTPといるときにAPが頻繁に電話をかけると、子供がAPから独立した経験をTPと共有する妨げとなる。この場合、電話の回数や時間を取り決めておけば心配が減る。TPが子供に好ましくない発言をする場合、それを制限する取り決めをすればよい。面会を取り巻く環境については、報告および実施の徹底を促すしっかりした体系が必要であり、特に環境が確立していない段階ではそれが重要である。
3. 居所変更を治療法として用いない
ほとんどのPAS症例において子供のAPとの関係は重要である。たいていの場合子供の世話を主にしているのはAPであり、それを崩そうとするとその家族の家族としての組織がさらに深刻な状態に陥る可能性がある。しかし、子供がTPと頻繁に接触することによってPASによる悪影響を打ち消し、子供にとって重要な尊敬すべき人々(例えば祖父母)としっかりした関係を築くことができる。したがって居所の変更が子供にとってPASから回復するのに役立つ体験となることもある。
4. 思いやり、冷静さ、深い愛情をもって子供と接することができるように、専門家のカウンセリングをうけることをTPに勧める
TPはPASのせいで壊れそうな家族の中で存在感が薄くなってしまっていることが多く、APを中傷することなく家族の直面している状況について子供に上手に説明しなければならないことがある。TPをまずPASから切り離すと、子供はPASに荷担しなければならないという重圧から解放されたというような感覚を持つことができる。
5. 子供がTPを愛し、TPに愛されることをたとえうわべだけでもAPに受容させる
APが記録に残る形でこのような受容を示すと、子供がPASから回復する力になる。他人の目にはAPが子供とTPが仲良くすることを嫌がっているように映るような場合でも、TPと自分がうまくいくようにAPが少しは願っているのだという安心感を子供は持つことができる。
6. 外部の専門家を利用すると、TPはAPと正反対のことを言う悪い人間では決してないという強いメッセージを与えることによって子供を守ることができる
しかし、この方法は子供の実体験にあわせて用いなければならない。もしTPが間違ったことをした場合は、見逃したり取り繕ったりしてはいけない。
7. 引き離し行為が子供に有害であることをはっきりと強く家族全員に周知する
場合によってはPASを心理的虐待とみなし、裁判所がPASを放ってはおかないということを知らしめるべきである。すべての例において裁判所命令が必要なわけではなく、逆効果になったり、無益となったりすることもある。裁判所命令という外部からの権威がないとなんともならない家族もある。この場合、裁判官や家庭裁判所委員は家族の共同評価および介入方法の策定に参加するべきである。
8. 子供がTPとの接触を継続することによってもたらされる利益を明確化する
これには一般的利益(例;子供が生物学的に親を必要とする、自我確立に役立つ、子供が現実に基づいた恐怖心を持つことができる[片方の親と全く接触を持たないとほぼ確実に子供は不合理に強い恐怖心を持ち、TPに関する非合理的な空想を抱くようになる]、愛する対象を喪失することを防ぐ[愛する対象を失うと多くの場合、喪失の原因がなんであれ子供に自己嫌悪や罪悪感が生ずる])、およびAP、TP、TPの周りの者、家族がもたらす特異的な利益がある。このような利益を明確化することによって、協調してPASの改善を目指す専門家が必要な方法をはっきりと見いだす一助となる。利益になんらかの欠点が伴うと、家族の分裂を進行させることがある。家族によってはTPとの面会が子供に明らかな利益をもたらさないこともあり、その場合は治療を行っても無駄になる可能性がある。
9. 対立してもほとんど何も生み出さないことを理解する
例えば喪失感が問題となる場合、引き離しを問題にして対立を深め喪失感を拡大するようなことをするよりも、喪失感を緩和することに焦点を当てることのほうが有効である。
10. 精神的支援を提供する
引き離しの中止によってAPに潜む深刻な心理的問題点が明るみにでる場合があるためPASからの回復にあたり、APに強力な精神的支援が必要なことがある。

回復は、たとえ可能であっても時間がかかる
 治療的介入が成功する可能性はかなり低い(良好な回復をみるのは1/3から1/2の例であるとされている)。しかしこれは、PASの治療が難しく膠着しがちであることを表しているというよりは、激しく争いPASが発生するような困難な離婚例に対する現在の対処法の到達水準を示しているにすぎない。例えば、この論文で記した方法は激しく争う離婚例について蓄積してきた知識に基づいて考えられた比較的新しいものである。我々の責務は、このような激しい争いになる離婚例についての研究を進め解決に貢献することである。しかし、最善と思われる方法を用いても、PASの背景にある仕組みは容易に修正できるようなものではなく、APを含めた家族の全員を救い、それぞれが心に秘めているPASからの回復を願う気持ちを実現するには、長期にわたる尽力が必要である。


1. Throughout this article we will refer to a child in the singular, although in most instances. the same could be applied to the plural, children.
2. R. Gardner, Parental Alienation Syndrome and the Differentiation Between Fabricated and Genuine Child Sex Abuse (Cresskill, N.J. 1987).
3. Clawar & Rivlin, Children Held Hostage: Dealing with Programmed and Brainwashed Children (American Bar Association 1989).
4. Gardner, supra note 2. at 109.
5. C.L. Wood, Notes and Comments: The Parental Alienation Syndrome: A Dangerous Aura of Reliability, 27 Loy. L.A. L. Rev. 1367 (Spring 1994).
6. Frye v. United States, 293 F. 1013 (D.C. Cir. 1923). superceded by Fed. R. Evid. 702, construed in Daubert v. Merell Dow Pharmaceuticals, Inc., 113 S. Ct. 2786 (1993).
7. Wood, supra note 5, at 1411-12
8. Karen "PP" v. Clyde "OO", 574 N.Y.S. 2d 267 (Fam. Ct. 1991), aff d sub nom., Karen "PP" v. Clyde "OO", 602 N.Y.S. 2d 709 (App. Div. 1993).
9. In the interest of T.M.W., 333 So. 2d 260 (Ra. Dist. Ct. App. 1989).
10. In re Rosenfeld and Rosenfeld. 524 N.W.2d 212 (Iowa Ct. App. 1994).
11. (Hornby) Simms v. Hornsby (Ohio Ct. App. 12th Dist., 1992)
12. In re Marriage of Wiederholt v. Fisher, 485 N.W.2d 442 (Wis. Ct. App. 1992).
13. E. Ferri, Growing Up in a One-Parent Family (NFER 1976); J. Santrock, & R Warshak, Father Custody and Social Development in Boys and Girls, 35 J. Soc issues 112 (1979); M. Shinn, Father Absence and Children's Cognitive Development, 85 Psychol. Bull. 295 (1978); C. Marino & R. McCowan, The Effects of Parent Absence on Children, 6 Child Study J. 165 (1976); E. Heatherington, Effects of Paternal Absence on Personality Development in Adolescent Daughters, 7 Developmental Psychol. 313 (1972); R. Sears, E. Maccoby & H. Levin, Patterns in Childrearing (Row Peterson 1957); J. Santrock. Infuence of Onset and Type of Paternal Absence on the First Four Ericksonian Crises, 3 Developmental Psychol. 273 (1970); W. Hedges, R. Wechsler, & C. Ballantine, Divorce and the Pre-school Child, 8 J. Divorce 33 (1979); J. Vess, A. Schwebel, & J. Moreland, The Effects of Early Parental Divorce on the Sex Role Development of College Students, 7 J. Divorce 83 (1983).
14. W. Hedges, Interventions for Children of Divorce: Custody Access, and Psychotherapy (New York, John Wiley & Sons, Inc. 1991); R. Gelles, Child Abuse and Violence in Single-Parent Families: Parent Absence and Economic Deprivation, 59 Am. I. Orthopsychiatry 492 (1989).
15. Ferri, supra note 13; S. Kellam, M. Ensminger, & F. Turner, Family Structure and the Mental Health of Children: Concurrent and Longitudinal Community-wide Studies, 34 Arch. Gen. Psychiatry 1012 (1977); J. Santrock & R. Tracy, The Effects of Children's Family Structure Status on the Development of Stereotypes by Teachers, 70 J. Educational Psychol. 754 (1979); Hedges, supra note 14; E.E. Maccoby & R.H. Mnookin, Dividing the Child (Harvard Univ. Press 1992); F. Furstenberg & C. Nord, Parenting Apart: Patterns in Childrearing After Marital Disruption, 47 J. Marr. & Fam. 483 (1985); M. Bowman & C. Ahrons, Impact of Legal Custody Status on Father's Parenting Post-divorce, 47 J. Marr. & Fam. 483 (1985); M. Kline et al., Children's Adjustment in Joint and Sole Physical Custody Families, 25 Developmental Psychol. 297 (1989); N. Coyish et al., Parental Post-divorce Adjustment in Joint and Sole Physical Custody Families, 10 J. Fam. Issues 52 (1989); J. Arditti, Differences Between Fathers with Joint Custody and Noncustodial Fathers, 62 Am. J. Orthopsychiatry 186 (1992); J. Wallerstein & J. Kelly, Surviving the Breakup: How Children and Parents Cope with Divorce (Basic Books 1980).

著者紹介
Kenneth H. Waldron, Ph.D.はウィスコンシン州マディソン在住の心理学者で、離婚を専門として臨床心理に携わっている。離婚調停、共同親権カウンセリング、親権評価、親教育、裁判所および裁判所付属の調停および調査部門の相談役に携わっている。
David E. Joanisはウィスコンシン州マディソンのBoushea, Segall& Joanis法律事務所に属し弁護士活動を行っている。家族法を専門としている。